こんなオーケストラがあったらいいな④ ~『シネマオケ(劇伴音楽)編』

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『はじめに』

劇場付オーケストラ、って何だろう?って考えてみたら、いまや映画に音楽がつきもののように、かつてオペラ、バレエなどを上演する劇場には当然ながら音楽を奏でる専属のプロたちがいて、コレが劇場付オーケストラの成り立ちなんだろうと推測する。

時代は21世紀になってもオペラやバレエは一大芸術であり、それに付随して劇場専属のオーケストラも引き続き存在する。もちろん空いた隙間を見つけてコンサート形式の演奏会も行うのが一般的ゆえに名を知られたオーケストラは数多い。

例えば一時期小澤征爾が監督を務めたウィーン国立歌劇場管弦楽団(Wiener Staatsoper Orchester)は、は定員150名(六管編成)で、毎年9月1日から翌6月30日までのシーズンに約300回のオペラ・バレエ公演を行う。このウィーン国立歌劇場管弦楽団のメンバーが、自主運営団体としてウィーン・フィルハーモニー管弦楽団を組織してコンサート活動を行っている、といった形である。
この他にも、ミラノ・スカラ座管弦楽団メトロポリタン歌劇場管弦楽団といった有名どころがあるので、劇場とオケの組み合わせをまとめてみた。

ウィーン国立歌劇場 : ウィーン国立歌劇場管弦楽団(Wiener Staatsoper Orchester)
ミラノ・スカラ座 : ミラノ・スカラ座管弦楽団(l’Orchestra della Scala di Milano)
ベルリン国立歌劇場 : シュターツカペレ・ベルリン(Staatskapelle Berlin)
バイロイト祝祭劇場 : バイロイト祝祭管弦楽団(Orchester der Bayreuther Festspiele)
ゼンパー・オーパー : シュターツカペレ・ドレスデン(Sächsische Staatskapelle Dresden)
バイエルン国立歌劇場 : バイエルン国立管弦楽団(Bayerische Staatsorchester)
ライプツィヒ歌劇場 : ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団(Gewandhausorchester Leipzig)
ジュネーヴ大劇場 : スイス・ロマンド管弦楽団(Orchestre de la Suisse Romande)
メトロポリタン歌劇場 : メトロポリタン歌劇場管弦楽団(The Metropolitan Opera Orchestra)

こうやって劇場付オーケストラとしてオペラやバレエの公演における演奏部分を担当するのに対して、昨今の舞台芸術(演劇・映画も含めちゃおう)は基本的にBGMは録音を使用するのがコストの面からも一般的となっている。
逆に言うならば、このコストであるからこそ、高貴な文化的嗜みから裾野の広いエンターテイメントとして発展してきた、ともいえる。

『映画館の音響も変わってきた』

ジョージ・ルーカス。世界でも最も名の知られた映画監督のひとり。
彼が自分の映画制作のために、特殊撮影、音響等を含めた総合的なプロダクションを行うべく1971年にLucasfilm Limited(ルーカスフィルム)を設立する。
この傘下には後にCGアニメ制作の雄となる「Pixer」、音響制作にて世界的に名を馳せる「THX」「Skywalker sound」といった部門/会社を抱えてハリウッドの発展に寄与した。

このTHX社が映画館の音響認証を行っており、ある一定品質を保つとTHXロゴの入ったプレートを掲げることが出来る、といったように臨場感溢れる音響はやはり映画には欠かせないものとなってきている。

それゆえに、音響研究一筋の米国人技術者レイ・ドルビー博士が、1965年にノイズリダクション技術の研究所を立ち上げたことがきっかけで始まったドルビーサウンドが映画の音響再生で、臨場感を高めるため聞き手の周囲を包む音場を再生する技術で主導的な地位を占めている。それこそ完全にトリビアだが、1977年のスターウォーズ第1作目では映画のクレジットで初めてドルビーサウンドのロゴを流している。

ドルビーサウンドも、ドルビーステレオから始まり、ドルビーデジタル、ドルビー5.1ch、ドルビー7.1chと発展を重ね、現在最新の映画館では、劇場の広さと設備に応じ最大128個の音響素材を元にリアルタイムレンダリングを実施し、最大64chのスピーカー音響となる「ドルビーアトモス」を採用し始めている。これは既存のサラウンドとは異なり、3次元空間を独立した動きのあるサウンド(またはオブジェクト)を、よりクリアで、より正確に配置することが可能としたもの。

こういった高品質な臨場感を作り出す音響もあれば、例えば立川シネマシティのように「極上爆音上映」を行うような映画館も出てきている。

これは『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の上映を行うにあたり、低音を専門に出す、コンサートホール用のサブウーファー『Meyer Sound 1100-LFC』2台をフル活用して、クルマが爆発するたび体が震える。発砲すると腹に銃声が重く響くようにセッティングされている。もうこれが病みつきになっちゃうわけですね。

『だいぶ話が逸れた』

こういった臨場感、迫力や特殊効果を前面に押し出す映画館もあれば、映画とオーケストラをドッキングさせたシネマコンサートでは、上映される映画のセリフ以外の音楽部分をオーケストラが生演奏。歴代映画の印象的な名曲を生の音色で楽しみながら、映画を鑑賞することができるようにした映画館もある。
欧米では既に人気が高まっており、日本にも2016年頃から導入され始めて、『E.T』『インディジョーンズ』『タイタニック』などが試みとして実際に行われ、チケットは完売という売れ行き。

ある程度のハコがないと採算的に成立しない事もあり、シネコンサイズではなく、東京国際フォーラムといったクラスでの開催とはなるが、これはメチャクチャ面白いと思うのですよ。

『映画館付専門オーケストラ』

名画には名演奏がつきもの。
欧米では1980年代から取り組まれていたが、戦前の名作など数は限られていたし、作曲家が「音楽が前面に出れば、作品の世界観を損なう」と危惧し、了承しなかったという(なかなか面白いこと言うね)。
ところが、2010年代に入ると、「ジョーズ」などの映画音楽で知られるジョン・ウィリアムズら映画音楽の巨匠がOKを出すようになったことにより弾みがついた。
映画から最新技術で音楽部分を消し、譜面をオーケストラの生演奏用に作り直すにはプロダクション費用がかかる。それでも、世界的な人気映画であれば、各国で公演できて収益が見込めることから、欧米を中心に勢いづいた。
やっぱり、録音音源をスピーカーで聴かせる映画館とは音響効果が別モノなわけですよ。
例えば、ディズニーの「ファンタジア」で言えば、「魔法使いの弟子」では管弦楽器がミッキーのピンチを臨場感たっぷりに彩るし、旧約聖書のノアの箱舟をなぞる物語では行進曲「威風堂々」を強弱豊かに鳴らし、冒険のワクワク感を引き立てる。やっぱり、その魅力は「生音」。オケの感情が音に乗って、録音の再生には出来ない、人のハートに直接訴えかけることが出来る。これが映画館で見る以上に、共に鑑賞した大勢の人と感動を共有した感覚になる人が多い、という効果を与える。
もちろん、これって映像と音楽を合わすのは超絶技巧で、指揮が鍵を握るし、ほんのミストーンも許されないという緊張感の中で演奏されるだけにオケに要求されるプレッシャーは半端ない。
それでも、ライブ演奏でジョン・ウィリアムズとか演奏されたら、それこそ号泣モノなんじゃないかと思うくらいに「生=ライブ」で観るという全く新しい感覚のエンターテイメント・イベントとして臨場感あふれる楽しみとして、そしてついてはオーケストラの人気復興の一助になったら良いなぁ、と思う今日この頃です。

てな感じでまた今度。

 

 

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