【四季だけじゃないよ】売れっ子イ・ムジチ合奏団のイロハ

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『イ・ムジチ(I MUSICI)とは何者?』

「イ・ムジチ(I MUSICI)」とは、イタリア語で「音楽家達」(The Musicians)を意味する。
1952年に、ローマのサンタ・チェチーリア国立アカデミアの卒業生12名が集まって結成。楽団としては指揮者を置かず、楽員全員の合議で音楽を作り上げる形式を採る。編成はヴァイオリン6挺、ヴィオラ2挺、チェロ2挺、コントラバス1挺、チェンバロ1台。
イタリアや世界のバロック音楽界における最も名高い楽団のひとつであり、日本での人気も高い。彼らの演奏するヴィヴァルディの『四季』はバロック音楽ブームの火付け役だと言っても過言ではない。イ・ムジチ合奏団演奏による『四季』は1995年時点の日本において、6種の録音の合計で280万枚を売り上げている。特に3回目の録音は日本で初めて(レコードとしては今も唯一)の、クラシック音楽でのミリオンセラーを記録した。
~Wikipediaより~

正式名称は「I Musici di Roma」。こんな売れっ子弦楽合奏団も、日本ではバロックの定番ですが、海外ランキングで言えば特段ここまでに売れまくっている訳ではありません。むしろ昨今はピリオド奏法をベースとした弦楽合奏団、というかピリオド奏法のソリスト主体の録音がウケています。

 

『ピリオド奏法とは何物?』

そもそもピリオド奏法って何よ、を簡単にまとめると以下。

<ピリオド奏法の定義>

その時代その時代の楽器・演奏様式を研究し忠実に再現することを主眼に置いた奏法。
かつてはバロック時代の楽器、音色、奏法を再現することとnearly equalであったので「古楽器奏法」とも言われたが、その後古典派、ロマン派の時代にまで拡大解釈されると、ピリオド演奏とは、その作品が生まれた頃、できれば生まれた地域で一般的だったものや想定された演奏者が使っていた楽器を使って、その当時の奏法で演奏したものを「ピリオド奏法」として指す、というのが定義と言えます。

<ピリオド奏法の目的>

楽器であったりオーケストラというものは時代とともに進歩することで音域・音像が広がり、それが次々にオーケストラに投入されていくというのがごく当たり前の時代。
オーケストラの進化に合わせて楽譜を書き換えることは「常識」とされており、誰も異議を唱えるものはいませんでした。それがずっと20世紀後半まで続きます。

その後、オーケストラの進化に合わせて、REVISEされ続けた作曲者の解釈を、「本来のあり方に戻す」というコンセプトで楽曲の研究を進め、作曲者の生きていた時代の響きを取り戻そうとしました。要は当時の奏法を用いて、再現することで新しいものを見つけようとする動き、なんですね。

<ピリオド奏法の特徴>※バロック奏法

トリル
現代では下からトリルを掛けるが、ピリオド奏法では上からトリルを掛けます。
他の装飾音も異なる場合が多いので、現在の曲では使われない物もあります。
ちなみにバロックではアタリマエ~の上からトリル、古典派までは上からが続きますが、現在の奏法では混在(というかどちらかというと下から掛けている人が多い)。
またフォルテッシモなどハリのある演奏をしなければならない時は下から掛けたほうが音にハリが出る、という効果もあるから、なのかもしれませんね。

ヴィブラート
現代では通常全ての音にかけるが、装飾音として要所にのみかけるか、もしくはノンビブラートとなります。
正しくは、ピリオド奏法においては全くヴィブラートをかけないという意味ではなく、ヴィブラートの位置づけが、楽譜には表現されていない演奏者の「任意装飾」として捉えられていたので、装飾が必要となるべきところ、音の一部にのみヴィブラートをかけていた、というのがあるべきスタイル。

即興&装飾
現代の奏法は基本的に作曲家が全て記譜することにより楽譜に忠実に弾くことが求められます。然しながらピリオド奏法ではこういったアクセントは演奏者が自由につけるし、繰り返しがあれば、その度に内容が異なるのがアタリマエ。なお、古典派に入ってから、例えばベートーベンは演奏者が気ままにアレンジすることを嫌って厳密に記譜したため、即興演奏がしにくいスタイルになっています。勝手に変えちゃダメっ。

ロングトーン
現代の奏法では指定がなければ安定した一定音量で弾くのがセオリー。ピリオド奏法になると「始め弱く、中ほどで強くピークを迎え、終わりに弱くというパターンで強弱をつける」。これをメッサ・ディ・ヴォーチェ(messa di voce)と言います。元々は「一定の音を長く歌いながらゆっくりクレッシェンド、次にデクレッシェンドするベルカントの発声訓練法」に由来していて、当時の演奏場所が硬い石床の教会や広間であり残響も独特であったので、ヴィブラートで音程を揺らす方法ではなく、純正な音程で音の強弱で表現を付けるほうが当時の表現の伝達としてマッチしていました。
厳密にはロングトーンのみならず短い音符に対しても音がふくらんでは消えるという特性がルールとして存在しており、ピリオド奏法で、ひとつひとつの音と音の間に空間ができるように一音ずつ響きを残して弓を弦から離して奏することがあるのも特徴のひとつです。

付点音符
現代では基本的には忠実な長さで演奏しますが、長めにとることで短い音符との対比を付けていました。これも残響の多い場所での表現を伝達するために敢えて極端に表現したとも言えます。

フレージング
即興性が求められる為テンポは大胆に動かすのも、これアタリマエ。これは感情の赴くままを許されているからで、スローなところでは豊かに歌い、速いフレーズはボルテージの高まりとともに軽快に走りまくる。日本の演歌、コブシや歌い回しに近い、自然な流れを重視したフレージングと言えます。
なんかここまで書いていると、きちんとしたセオリーのあるブルーズロックみたいな感じと取れなくもないかな、と思い始めてきたw。

ピッチ
現在はA=440~442Hz。
これがピリオド奏法の場合、430/415/392Hzあたりが使用されます。

 

『イ・ムジチは流されない・・・のかな?』

話を元に戻すと、世の中がピリオド奏法を受入れもてはやすようになっても、彼らは結成当初のスタイルを貫き、現代奏法、現代楽器により彼らが考える美しい音楽を追求している(ことになっている)。これがバロックの求道者たちからは不評であり、また即興性豊かでスポンテニアスな音楽とは一線を画すため「旧時代」「平凡」と揶揄されることも多々。
ちなみにイ・ムジチ合奏団の歴代コンサートマスターを特徴ごとにまとめてみると、いろいろ自説は曲げないと言いながらも、その時代の雰囲気を吸収しながら来ているのだ、ということが何となくわかります。

第1代:フェリックス・アーヨ(Felix Ayo)1951~1967
第2代:ロベルト・ミケルッチ(Roberto Michelucci)1967~1972
第3代:サルヴァトーレ・アッカルド(Salvatore Accardo)1972~1977
第4代:ピーナ・カルミレッリ(Pina (Giuseppina) Carmirelli)1973~1986
第5代:フェデリゴ・アゴスティーニ(Federico Agostini)1986~1992
第6代:マリアーナ・シルブ(Mariana Sîrbu)1992~2003
第7代:アントニオ・アンセルミ(Antonio Anselmi)2003~現在

現コンサートマスターのアンセルミの代になるとオリジナルメンバーもいなくなり、かつてのアーヨやミケルッチの時代の豊潤で柔らかいトーンとは全く異なる「現代的」な演奏スタイルに変化している。
コレが世の流れなら仕方がないよね。

かつての伝統を思い描くリスナー側と、生き残りをかけてアイデンティティを革新していきたい演奏者側。「お約束」というものがどんどん無くなって、あらゆるものが許容される世の中になると、存在意義って出しにくいですわね。

てなことで、また次回。

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