【木材図鑑】大航海時代が成しえたのか?ヴァイオリンに使われる木材たち

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『そもそも原木の姿を見たことがありますか?』

美しい木目は知っていても立木、原木での姿って見た事、案外ないですよね。
そんな自分も意外とあるようでありません。と言うこともあってちょっと調べてみました。

 

『その前にヴァイオリンのパーツ呼称をおさらい』

まずは下記画像をご参考までに。

大別すると以下木材がそれぞれの部材に使用されています。

ネック:メイプル(Maple)/楓(カエデ)
表板 :スプルース(Spruce)/唐檜(トウヒ)
側板 :メイプル(Maple)/楓(カエデ)
裏板 :メイプル(Maple)/楓(カエデ)
指板 :エボニー(Ebony)/黒檀(コクタン)
アゴ当て、ペグ:①エボニー(Ebony)/黒檀(コクタン)
        ②スネークウッド(Snakewood)
        ③ボックスウッド(Boxwood)/柘植(ツゲ)
弓  :フェルナンブーコ(Pernambuco)

 

『こんなにも産地が違う木材の集大成だったのね』

①メイプル(Maple)/楓(カエデ)

和名は楓(カエデ)。ヨーロッパ、北アフリカ、北アメリカに広く分布しています。
樹種や環境の差によって密度や木目に違いがあり、一概にメイプルといっても世界中に約130種あるゆえ、それぞれに特徴があります。基本的には木目の詰まった密度の高いメイプル材は硬く強度があるゆえ、力学的に負荷のかかる部位に使われることが多いです。
音質的にはクリアーでアタックの強い、輪郭のハッキリしたサウンドが特徴。


特にネックは相当な負荷がかかる場所ゆえに”ハードメイプル”(Hard Maple)系統が使用されています。またストラディヴァリウスはノルウェー産メイプルが使用されていた、との推測もある模様。
また側板、背板には”ホワイトシカモア”(white sycamore)と呼ばれる杢(モク)が入った種類を使用しています。これも名称がセイヨウカジカエデ、シカモアカエデ。商品名でグレートメープル(Grate Maple)、ヨーロピアンメープル(European Maple)と呼ばれ、まぁ色々あります。

旧ユーゴスラビアのダルマチア地方や、ボスニア地方のバルカン山地で産する通称バルカン材、バルカンメイプル(Balkan Maple)、ボスニアンメイプル(Bosnian Maple)が楽器用として高級材の位置づけです。
なんかバルカン、って聞くだけでカッコいいのは何だろう。

 

②スプルース(Spruce)/唐檜(トウヒ)

和名は唐檜(トウヒ)マツ科トウヒ属の常緑針葉樹の総称で、まぁいわゆるモミの木みたいな針葉樹です(モミ属ではないので厳密には異なる)。北半球の温帯から亜寒帯にかけて広い範囲に30種以上が分布していて、分布の北限はシベリア・アラスカ・カナダの北極圏、南限はユーラシアではビルマとヒマラヤ、北米ではメキシコ北部の高山地帯に達しています。ヴァイオリンで使用されるスプルースはオウシュウトウヒ(欧州唐檜、商用名:ヨーロピアンスプルース)が殆ど。目も真っ直ぐ,軽くて加工性がよく,乾燥による収縮も小さく狂いも少ないためにこういった工芸品に向いていて、ヴァイオリン以外にもギターのトップ材なんかに使われたりしています。

(↓だいぶナナメ上の使われ方↓)


寒い高地で育つ木のため、音質は「クリアーでヌケの良いしまった音」が特徴、かつ音に重量感があって、豊かな倍音をもたらし、タッチやニュアンスの差による音色変化が大きく出る材と言われています。それゆえに音楽表現の幅が広く出る、というのと、弾き込みによる音色の変化が大きいと言われており、これが重要なポーションを占めているかもしれません。
イタリア北部はドロミティの山岳地帯にあるヴァル・ディ・フィエンメ(イタリア語: Val di Fiemme)ににて採れるスプルースが最高級とされています。
漸く出てきましたね、地場モノ。

 

③エボニー(Ebony)/黒檀(コクタン)

和名は黒檀(コクタン)。カキノキ科カキノキ属の熱帯性常緑高木の数種の総称でインドやスリランカなどの南アジアからアフリカに広く分布しています。古くから世界各国で家具や弦楽器などに使用され、特にセイロン・エボニーは最高級材のひとつに数えられています。


密度が非常に高い材質で、硬く強固であり摩耗に強い材であるという反面、成長が大変遅い事も特徴のひとつで、直径7インチ(約18cm)になるのに200年かかるとも言われていて、伐採量に対する木材の成長が追い付かず、同じように指板などに使われるローズウッド、ハカランダは既にワシントン条約で輸出入が禁止されています。
メイプルよりも反応が良いとさえ言われるほど立ち上がりが良く、それでいて低音域から高音域まで満遍なくバランス良く鳴ると言われており、そのため非常にメリハリの効いた音色が特徴です。

 

④スネークウッド(Snakewood)

南米産のクワ科の木材で、材に見られる斑紋が蛇(snake)の鱗のようであることに由来し、また模様が象形文字文字にも似ていることから別名「豹麗木」「レターウッド(Letterwood)」「レパードウッド(Leopardwood)」とも呼ばれる世界最高峰の銘木材です。材は極めて重硬で緻密な材の為、加工や乾燥が困難です(要はメチャクチャ硬いし割れやすい)。
分布については、ブラジルのアマゾン川流域からガイアナ共和国、ベネズエラ、コロンビア、パナマ、メキシコ南部さらには西インド諸島までの中央アメリカ及び熱帯アメリカに生育し、商業的供給については主にガイアナ共和国、フランス領ギアナ、スリナムからのもの。


後述のフェルナンブーコの代替として弓に使用されることが多いですが、弓の反りが経年変化で戻ってしまう可能性もあるのでモダン弓ではなくバロック弓に使用されることが殆どです。ついでフィッティング(ペグ、ブリッジ、アゴ当て)に使用されます。

 

⑤ボックスウッド(Boxwood)/柘植(ツゲ)

和名は西洋柘植(セイヨウツゲ)。ツゲ科ツゲ属の常緑性低木で庭木や街路樹としてよく用いられて、材は緻密で硬いことで有名です。
強度は非常に優秀で、蒸し曲げに対する適正も高く、硬く割れにくいという特性を持っていますが、硬い木材の為、切削等の加工の場合、波上の繊維が流れていることから釘打ち、ネジ止めするには裂けてしまう可能性が高いので容易ではなく下穴が必要になります。


もともとの木材成長において大きくならないゆえに、小さな装飾品の加工に用いられることが殆どで、フィッティング(ペグ、ブリッジ、アゴ当て)に使用されます。

 

⑥フェルナンブーコ(Pernambuco)

ブラジルボク(Brazil Iron wood)はマメ科ジャケツイバラ亜科の常緑高木で、ブラジル北東部のペルナンブーコ州(Estado de Pernambuco)を産地とするブラジルボクを別名をフェルナンブコ、ペルナンブコと言います。材が硬いく、しなやかでかつ加工後もその形状を保つことから現在もヴァイオリン属の楽器の弓材として用いられます。
なおブラジルの名は「赤い木」の意味で、ヨーロッパで染料として用いられたインド原産のスオウのポルトガル名によります。スオウの赤色色素はポルトガル語の「brasa(燃えるように赤い)」に由来する「ブラジル(brasil)」であり、スオウ同様に外見と用途が似ていたため、ポルトガル人によって本種もブラジルと呼ばれるようになりました。平たく言うとブラジルに生えていたから植物名がブラジルボクなったのではなく、ブラジルボクがたくさん生えていたので国名がブラジルになったというわけです。
心材から紅色色素(ブラジリン)が得られるので、これを染料として用いました。このブラジリンについて、かつてはブラジルの主産品でしたが、化学染料の登場によって廃れました。しかし18世紀にフランスのフランソワ・トゥルテがこの心材が持つ振動減衰性の低さに着目し、弦楽器の弓に最良の材料であるとして採用すると、その後も需要は高止まりしました。それゆえにペルナンブコ(フェルナンブコ)とは弦楽器業界におけるブラジルボクの心材の通称なのですね。


ちなみに、ブラジルの国名由来ともいえる木材が過度の伐採により絶滅の恐れがあるため、IUCNに絶滅危惧種として登録されているというのもなんとも複雑な話。それを言うならギターとかの指板に使われるローズウッドは、2017年にいわゆるローズウッドに属する全ての木材がワシントン条約の付属書IIに指定され、輸出入に規制がかかりました。世の流れなのですな。

いやぁ、こんな部材を1600年代から色々かき集めて作ったものだな、と感心してしまいます。これら材に行きつくまでに試行錯誤、その他いろいろあったものと思いますが、少なくとも地産地消を飛び越えた製作をしていたことに驚きです。

ってことで、今度は各木材でも見てみましょうかね。
ということでまた次回。

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