【新しいヴァイオリン教本】第5巻 ~ ラ・フォリア(La Folia)~

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Violin Sonata in D minor, Variationen über ein Thema von Farinelli “La Folia” Op.5-12
(ヴァイオリン・ソナタニ短調 ファリネルリの主題による変奏曲『ラ・フォリア』作品5-12)
アルカンジェロ・コレッリ(Arcangelo Corelli, 1653年‐1713年)

『ラ・フォリア』

「サラバンド」はスペイン系の舞曲の一種で、3拍子と付点音のリズムが特徴の舞曲。他にも「シャコンヌ」とか「アルマンド」とか舞曲の形式がありますが、サラバンドの殆どはゆっくりとしたテンポで演奏される音楽で、「ラ・フォリア」は、その「サラバンド」の一種なのです。
決まった旋律をベースにしていくつかの変奏が展開される音楽で、Folia=「狂気」、「常軌を逸した」などの意味合いを持つ中世のイベリア半島を起源とするテンポの速い舞曲なんですね。これが17世紀になってからテンポが落ちてゆっくりとした舞曲になったというワケ。

しかも、いわゆる曲の形式であるので、決してコレッリの専売特許ではなく、数多くの作曲家たちがこの「La Folia」を作曲しています。ところが、現代においても、なお哀愁漂いつつも時として切れ味鋭いメロディックな変奏曲はコレッリ以外に無く、結果的にコルレリ作曲『ラ・フォリア』みたいな扱いになってしまっているのです。
『ファリネルリの主題による変奏曲作品5-12(ラ・フォリア)』なのにね。

 

『版が多過ぎてどれも変奏が違うマジック』

例えばヴァイオリン初学者がよく使う「スズキ・メソード/鈴木鎮一ヴァイオリン指導曲集 6」と「新しいヴァイオリン教本第5巻」は冒頭と最後は同じだが、中間部のヴァリエーションは同じところもあれば全く異なるところもあり、結果的に最終難易度も変わってくる。
「新しいヴァイオリン教本」なんて途中に猛烈に難しいカデンツァが挿入されており、コレってこの段階の学生に対してどうなのよ?というレベル。
海外の譜面も幾つか出版社によって異なり、編者によっても変わるので(フランチェスカッティ編とかあるw)、もちろんリファレンス用の音源もちょこちょこ異なることになります。
基本線はスズキメソードにはスズキ独自の旋律が含まれつつ、6巻にふさわしい技術で記載されているのに対して、新しいヴァイオリン教本では5巻にはちょっと難しいかな?って言う部分がちらほら(カデンツァとかね)。
まぁ、ここは先生との相談でしょうね。

 

『オールドスタイルで攻めるなら』

オールドスタイル、と言っても古楽のスタイルで攻める、と言うことではありません。多少古臭くても、良い音、良い響きで演奏する、ということを目指します。

① Arthur Grumiaux

 
古楽器の演奏が好きな方にとっては、密度が濃くて平坦な演奏、と評されることもありますが、音質は均一で安定していて、響きが豊かであり、かつ見事に歌い込まれているという点でこれ以上ないんではないか?と個人的には思います。
『新しいヴァイオリン教本』ではHubert Leonardの編曲、カデンツァが使用される為、グリュミオーの版とは異なるようですが、それはそれで参考になる部分がたくさんああります。

 

② Nathan Milstein

 

グリュミオーに比べると録音のせいもあるけれど少し硬質な音色。
それでも優雅でステキな演奏。かつここで有難いのはHubert Leonardの編曲版を使用しているという点で、『新しいヴァイオリン教本』を使用されている方には一応参考になる、というもの。まぁ、カデンツァの途中でバッサリとカットしたりするなどして短縮化が図られているので、すべてのリファレンスが納められている訳ではないですが。

③Henryk Szeryng

録音は1981年。比較的シェリングにしては後期の録音で、環境も良かったのかこれもまた素敵な演奏。
というよりステキ、と言う言葉では片付けられない「気合い」というか、「蓄積された技術」やいわゆる「芸術性」みたいなものが発散していて、所詮顔の見えない録音なのに猛烈に心を打つ、という演奏と言えばいいでしょうか。
だいぶ思いを込めて(無論他のヴァイオリニストも思いを込めて弾いていると思いますが)いるな、という傑作です。

 

『コッレリって結構クラシックの先駆けだったりする』

コルレリ、またはコッレリと発音されるが、フルネームはアルカンジェロ・コレッリ(Arcangelo Corelli, 1653年‐1713年)でありイタリアの作曲家・ヴァイオリニスト。
基本的にコルレリの作品は、旋律の美しさがハンパないところからくる求心力がスゴイ。バロック時代の中でも古い方、ヴィヴァルディより25年、バッハやヘンデルより32年早く生まれているが、現代にも通じる古臭さのない洗練された響きは、最も影響を与えたとされるヴィヴァルディとも異なるし、神懸かった時のバッハにも通じる旋律の流れと和声進行の丁寧な扱いがコッレリの特徴であり、現存する曲数は少ないがどれも素晴らしい曲と言える。その中でも『クリスマス協奏曲』と呼ばれる合奏協奏曲は美しさで群を抜く。

「クリスマス協奏曲」 Christmas Concerto
12 Concerti Grossi, Op.6
Concerto No.8 in G minor ‘Fatto per la notte di Natale’

数ある「クリスマス協奏曲」の中でもこのオルフェウス室内管弦楽団の演奏は絶品。猛烈に磨き抜かれたヴァイオリンの音色、美しく豊かに響くチェロ、とにかくこれは一聴の価値がある。そして、こんなにも美しい和声進行を既にこの時代に編み出しているコレッリの凄さったらありゃしない。特に2楽章「Allegro」の美しさは悶絶級。
久々に引き出しから引っ張り出して聴いていますが、もう既に何度リピートしたことか。

『La Folia』と合わせて神曲認定しちゃうぞ、というくらいです。

ちなみにコレッリのクリスマス協奏曲は「合奏協奏曲集」に含まれるもので、これ以外にもステキな曲が多数あります。

→【バロック中期の傑作集その1】アルカンジェロ・コレッリ『合奏協奏曲集 作品6‐1ニ長調』 

ということでまた次回。

(2018年1月14日追記)

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