【木材図鑑】木材のサンドイッチが紡ぐ魅力?メイプルとマホガニーの物語

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昨日に続いてあらかじめお断りしておきます。
ヴァイオリンや音楽を扱うサイトなのに、昨日はメイプルシロップ、今日はサンドイッチ?
でも今日は少しマトモで、音楽に回帰しています。

ということで、当サイトの主旨とは引き続き「あまり関係が無い」のです。
すなわち、強いて言うとカテゴリーの「木材図鑑」ともリンクしません。あんまり。

 

『メープルシロップが採れる木はなんだったでしょうか?』

はい、復習です。この写真の木ですね。採取管を刺して、最後のしずく、という感じです。

“メープルシロップ (maple syrup) は、サトウカエデなどの樹液を濃縮した甘味料。独特の風味があり、ホットケーキやワッフルにかけたり、菓子の原料として用いられる。
常温で固体状になるまで濃縮されたものはメープルシュガー (maple sugar) と呼ばれる。メープルシロップを加熱濃縮後、急冷しつつ撹拌しクリーム(バター)状にしたものはメープルバター (maple butter) と言う”
~Wikipedia~

コレでしたね。そして一昨日のおさらい。

“サトウカエデとは英名シュガーメイプル(Sugar Maple)のこと。
ハードメイプル(Hard Maple)でありアメリカおよびカナダに広く分布する樹種”
Hyakushiki Violin(百式ヴァイオリン)

詳しくはこちらを参照。
→【木材図鑑】メイプルシロップより魅力的?吸い込まれそうな杢目を持つメイプル
→【木材図鑑】吸い込まれそうな杢目より魅力的?メイプルシロップのまとめ

このシュガーメイプルが含まれるハードメイプルを材とする楽器群は多々ありますが、クラシックで言えばヴァイオリンをはじめとする弦楽器群が挙げられますし、最近ではドラムのシェルなんかにも使われています。やはり低音域から高音域までの鳴りの良さ、クリアな音像がウケているから、なんですね。

ただこれ、実は木材の中ではメチャクチャ重い材のひとつに挙げられます。
比重はエボニーのように1.0を超えることは無いですが、一般的な木材に比べれば目が詰まっていて重いのです。
これはシュガーメイプルの産地が冬はマイナス30度にもなる、という厳冬を経験して育つだけあって木の密度が高いのですね。従って、硬く力学的に負荷の掛かる部材として向いているだけに重いという弱点を背負うことになるのです。

『木材の重さが弱点になる時代』

古くから生音で勝負していた時代は、楽器に音を共鳴させる意味合いから空洞構造を持っていました。擦弦楽器(ヴァイオリン属、ヴィオール属)、撥弦楽器(リュート属、ギター属)、打弦楽器(ピアノ属)、殆どみんなそうでうす。これらの楽器にメイプル材は欠かせない材料でしたが、唯一の救いは空洞構造ゆえに軽く済んでいたこと、なのですね。

時は1894年、アメリカはミシガン州にマンドリン製作に端を発するギターメーカーが産声を挙げます。その名を『Gibson Guitar Corporation(創立当時はthe Gibson Mandolin-Guitar Mfg. Co, Ltd.)』。1936年に商業ベースでは世界初のエレキギターであるES-150を発売したギターメーカーでもあります。

そう、時代は生音から電気による増幅によりスピーカーから拡声される時代へと変わっていったのですね。そうなると共鳴するボディがむしろ仇となります。即ち「ハウリング」問題に悩まされるようになるのです。

ハウリングというのは、本来であれば「マイクにより得られた音声信号をアンプで増幅し、スピーカーから出力する」という通常のプロセスを経る際に、楽器から出る鳴らしたい音だけではなく、スピーカーから拡声された音をボディが共鳴したりして起こります。
スピーカーからの出力がある一定レベル以上になってしまうと、マイクをスピーカーに近づけると振幅の大きな規則的な電気信号が得られて、「キーン」といったピーキーノイズ、または「ブーン」といった低周波ノイズが発生してしまうのです。
これが発生すると、マイク~アンプ~スピーカーというプロセスに連続的な過大入出力が起こるため、場合によってはスピーカーが破損するなど、機材にダメージを与えることもありますし、そもそも音楽にならない、という状況に陥るのです。
これはスピーカーからの出力の一部がマイクに帰還されたことにより生ずる発振現象なので、エレキギターのマイクでスピーカーの音を拾わないという構造が必要になってきてしまったのです。

その件(くだん)のGibson社が1952年、いままで同社が手を出していなかったソリッドギターの開発、販売を開始しました。
1915年生まれのアメリカ人ギタリスト、レス・ポール(Les Paul)がGibson社との共同開発で生み出した『Gibson Les Paul』です(以下長ったらしいのでレスポールと記載)。

コレとサンドイッチと何の関係がありますのん?ましてやメイプルネタと何か?と思うでしょ。このレスポール、当時のギターとしては画期的な構造を持っていたのですね。

基本的な木材の特性に立ち返ると、
・硬い材ほど音の立ち上がりが早い。
・硬い材ほどアタック感の強い音響特性を持つ。
・硬い材ほど音の輪郭が明瞭になり、高音と低音のメリハリを利かせやすくなる。
・柔らかい材は柔らかく暖かみのある音響特性を持つ。
・比重の重い材ほど低音または高温よりの音響特性で、重厚な音の特性を持つ。
・比重の軽い材は中音域・高音域がにピークのある比較的軽快な特性を持つ。

そして北米産出のメイプル材は当然ながらその音響特性からレスポールのボディ・ネック材としても有力候補になったでしょう。でもオールメイプルの構造にはなりませんでした。
当時の開発陣は「オールメイプルで製作したがサスティンの長すぎるギターができてしまった」とのことで採用しなかったようですが、これはその後のギター製作の歴史においても判断として大正解であったと思われます。

というのも、メイプル材は「超重い、超硬い、超加工がやり難い」からなのです。
現在のモデルですら墓石並みの重さをもつレスポールなだけに(墓石持ったことないけれど)、賢明な判断と言えましょう。その後の音楽シーンは着席スタイルから立席スタイルへと変わり、バンドも観客も動き回るようになり、そんな中で墓石ギターを背負ったギタリストがじーっと演奏している、そんな歴史となっていたら、その後のロックギタリストたちは生まれなかったハズです。

 

『画期的なサンドイッチ』

レスポールのスタンダードモデルは、ボディのバックにマホガニー、トップにハードメイプルの2種類の木材を貼り合わせた独特の構造を採用しています。この構造が後のギターに影響を与えまくるサンドイッチ構造となるのですが、その前に初出のマホガニーってなんぞや?というところを見てみましょうか。

“マホガニー(英: Mahogany、日本語表記: 桃花心木)とはセンダン科マホガニー属 (Swietenia) に属する植物に冠される総称。木材としては導管が大きく柔らかいため加工しやすく、繊維方向に現れるリボン杢と呼ばれる立体的な見た目から高級家具や高級楽器などに使用される木材として知られる”
~Wikipedia~

産地は中南米、インドネシアやマレーシア、フィリピン、バングラデシュ、フィジー、インド、ハワイなど。世界三大銘木として「ブラックウォールナット、チーク、マホガニー」と言われるくらい重宝された木材であり、その起源は、16世紀、スペイン人がカリブで発見したことに遡ります。その後、当時最も人気のあったウォールナットが不足したことにより、その代替としてマホガニーは高級木材としての地位を確立していきました。
マホガニーの語意は「黄金色」を意味し、高級木材として世界的に需要が高く、古くはヨーロッパの宮殿、ホテルや豪華客船の内装、家具などに使用されており、加工のしやすさから楽器にも使用されていました。

音響特性は、中、低音域に優れるが、高域不足、というもの。
即ち、加工のしやすさから柔らかく比重の軽い材ということが推測できると思いますが、安定度が高く、軽量で薄い材でも厚味のある音が出る、と言うことなんですね。

この材にメイプルをラミネートする、という荒業をGibson社は生み出したワケです。

その結果、得られた音響特性はメイプルとマホガニーの長所をそれぞれ生かした、メイプルのクリアな音像とサスティン、そしてマホガニーのウォームな音色を持ち合わせたギターが生まれたのです。

その後、Gibson社が生み出した画期的なピックアップ(マイク)、ハムバッカーピックアップが生み出したノイズレスの丸みを帯びたサウンドがさらにその特徴をプッシュしています。

1957年モデルからそのハムバッカーピックアップである「P-490」が搭載されました。
このピックアップは当時のGibson社員、セス・ラヴァーの設計によるもので、シングルコイルを二つ並べたようなダブルコイル(いわゆるハムバッカー)となっており、コイル二つの巻く向きと磁極を逆にしてノイズをキャンセルする仕組みになっています。
このノイズレスのサウンドを得るために、副作用としてシングルコイルよりは高域特性が悪く、ニュアンスを拾いにくく、しかも出力が大きくなってしまったが、これがレスポールタイプのギターの魅力となっていて、かつロックがその地位を獲得していく流れに重なって、その後エレキギターの一大勢力を築くまでに至ったのです。

 

『ヴァイオリンのようにレスポールにもビンテージモデルがある』

Gibsonレスポールは1950年代後半に製作された58年~60年モデルに市場では猛烈な価値がついています。これはエリック・クラプトン、ジミー・ペイジといった当時(今もだけど)最高の評価を得ていたギタリストがこぞって58年~60年あたりに製作されたレスポールをマーシャルアンプにつないで得られた極上のロックサウンドを鳴らしていたことで、そのフォロワーたちがそのモデルを追い求めた事があります。

ただ、発売当初はレスポール、大して売れなかったみたいなのです。
それがゆえに、製作本数も大したことが無いし、Les Paul氏自身がGibson社との契約が1962年で切れたり。すなわち、リアルタイムでは「数あるギターの中のひとつ」だったのでしょうね。

ちなみに、この58年~60年のモデルは「サンバーストカラー」に塗装されていて、このサンバーストカラーが経年変化で1本1本独自の変化をしています

・ボディ・トップのメイプル材の色味が経年によって変化すること
・ラッカー塗料の退色の進み具合が色味によって異なること
・トップのクリア層が光により変色すること

さらに上述のハムバッカーピックアップが経年変化で「味わいのある枯れた音」を鳴らすようになっているのも価格を高騰させる要因でした。

まぁ、なんだかんだ言って58年~60年モデルが1,400本程度しか生産されなかったのが一番大きいでしょうけれど。59年モデルなんて1990年代でも最低500万円、今となっては数千万円の価値が付いちゃっています。

見た目も美しい、というのが個人的には有りますけどね。
特に「レモンドロップ」と呼ばれる美しいアメ色でメイプルの杢目が映える59年モデルは、確かにヴァイオリン同様に芸術品の域に達しているのかもしれません。

ってなことで、また次回。

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